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環境コラム

東京大学 菊池康紀 准教授インタビュー【後編】
「資源を循環させる」という共通の目的のために

東京大学 菊池康紀 准教授

東京大学 未来ビジョン研究センター/総括プロジェクト機構「プラチナ社会」総括寄付講座(代表兼務)/大学院工学系研究科化学システム工学専攻(兼担)。
環境・エネルギー、健康・医療、地方創生等の課題を解決する「プラチナ社会」を実現するための、理論的背景の整理、知の構造化による課題解決のフレームワークづくり、普及展開方策等に関する研究。LCA関係で奨励賞や論文賞など受賞歴あり。

2050年の未来を見据えたうえでのキーポイント

包装資材の原料を作るにあたり、近年では石油に依存していないリソースを使うことが増えています。例えば2030年、2050年……と未来を見据えたとき、資源に関する問題を解決するために重要なキーはどこにあるとお考えですか?

菊池:決して何か一つのキーを回せば開く扉ではありませんから、やらなければならないことは山ほどあります。

まず日本の現状を考えると、バイオや生分解などに対する正しい知識を整理し、消費者にきちんと伝えていくことが急務ではないかと思います。私たちの研究室で実施する消費者調査では、原料や素材に関する基礎知識をクイズにして盛り込んでいるのですが、正直、正答率が低いです。「原料をバイオ化する」ことそのものに対し、「製品価格が高くなるのではないか」「企業が儲けるためにやっているのではないか」という印象を持つ人も少なくありません。本来ならば最終的な受益者であるはずの消費者に、正確な情報が伝わっていないことは、とても残念です。

他にも例えば、パーム油産業から児童労働問題や環境汚染の問題を強くイメージして拒否反応を示す人たちが一定数いますが、正直なところ、この社会の中でパーム油由来の製品に触れずに生きていくことは難しいのが現状です。だから「パーム油=悪」と印象だけで捉えるのではなく、パーム油のライフサイクルを、これからどのように改善していくかを議論していかなければならない。こうした消費者に対する発信・教育に関しては、製造側の企業だけではなく、我々のような大学や公共機関をはじめとするニュートラルな立場の機関も協力して取り組んでいくべきことだと考えます。

さらに製造企業側は、資源に対する正しい知識だけではなく、自分たちの思想や考え方、目指している場所、取り組み内容なども合わせて共有していく必要があります。

そしてもう一つ、重要なキーになるのはサプライチェーンマネジメントです。現在、プラスチック製品を紙製品で代替する動きが出てきていますが、そもそも現代社会でこれだけプラスチックが使われるようになったのは、紙製品に関連する環境負荷が原因でした。当時は山林の伐採が行われて森林破壊が進行したことが問題とされたため、現在の製紙業者は自分たちが保有する土地で素材となる木を育て、そこから原料を得ています。つまりサステナビリティが担保されるようになったわけです。

プラスチックはこれまで基本的な材料が石油だったため、その原料部分までケアをする必要はないという暗黙の考え方はあったように思います。しかしこれから、紙製品が辿った道と同じことがバイオプラスチックでも起きると思います。「なんとなくバイオ、生分解性のほうが、イメージは良いから」が仮に開発のきっかけであったとしても、バイオの原料になっている植物がどこでどのように作られているのか、またどのような企業が関わっているのか、製造企業側には、そういった素材のサプライチェーンマネジメントやその見える化がより一層求められるようになっていくでしょう。個人的には消費者ができる3R(Reduce、Reuse、Recycle)だけではなく、製造側やリサイクルシステムができる5R(Remanufacturing, Refurbish, Repair, Reuse, Recycle)を加えた考え方が必要だと感じています。このことについては、関係者間でのしっかりとした議論が必要です。

最後に、海外との比較についてお伺いします。海外諸国と日本では、資源循環の問題に対する意識にどのような差がありますか?

菊池:国によってさまざまな違いがあると思います。どこが進んでいるということは一概に言えないのではないでしょうか。欧州、北米でも歴史背景や人々の意識の根底にあるもの、価値観のようなものでしょうか、そういったものが働いてシステムが変わっているように思います。北欧ではバイオ系の研究が進んでいて、バイオ由来のプラスチックを開発しようとしている企業がすでにいくつかあります。ただヨーロッパ全体としては、まだポジティブにはなりきれていない空気があるように思いますね。中国やアジア諸国でも、廃棄物問題に対する関心が高まっているようです。ただ消費者と政府・産業界との温度差はまだまだあるのではないでしょうか。

ただ一つ言えるのは、欧米で採用されている仕組みが、日本にとって必ずしも最適なものとはいえない、ということです。日本は日本人の感覚に合わせたサプライチェーンや、ライフサイクルを模索し、資源循環のプロセス構築していくべきだと思います。

(2020年8月インタビュー)


今回のインタビューでは、東京大学の菊池康紀 准教授から、環境問題、資源循環に関する現状や課題、世界から見た日本の状況などを解説していただいたうえで、製造側のあるべき姿について詳しくお話いただきました。明日からのものづくりに少しでもお役に立てば幸いでございます。
次回は群馬大学 粕谷健一教授から、今回も少し話題が出ました「海洋プラスチックゴミ」にフォーカスしてお話をいただきます。