TOP > コラム > 日本化学工業協会 技術部 部長 野田浩二様インタビュー ケミカルリサイクルは、プラスチック食品包装の未来を変えるか

環境コラム

日本化学工業協会 技術部 部長
野田浩二様インタビュー
ケミカルリサイクルは、プラスチック食品包装の未来を変えるか

日本化学工業協会 技術部 部長 野田浩二様

(出向元:株式会社カネカ 品質・地球環境センター幹部職)

ケミカルリサイクルが資源循環のために果たす役割とは

まず、日本化学工業協会(以下、日化協)さんが取り組んでいる廃プラケミカルリサイクルワーキンググループ(以下、CR-WG)について、どのような活動をされているか教えてください。

野田浩二氏(以下、敬称略):2019年11月にCR-WGを立ち上げ、第1回を開催して以来、現在(2020年12月)までの間に計12回実施してきました。ケミカルリサイクルの定義について議論するところからはじまり、廃プラスチックの収集・分別に関する現状と課題の共有、ISO認証などの出口戦略、法的課題の整理などが主な議題として挙げられています。また大きな流れとして、政府が主導する「プラスチック資源循環戦略ワーキンググループ」に向けた意見集約も行ってきました。

第1回時点で9企業、5団体、2省庁が参画し、それに大学の先生や石油会社、設備メーカー、リサイクラーなども交えて質の高いディスカッションを行っています。このワーキングの主たる目的は、「廃プラスチックのケミカルリサイクルに対する化学産業のあるべき姿」をまとめるということにあります。ですから、化学産業は廃プラスチック問題にどう取り組むべきかを常に考え、議論しています。これだけのメンバー(12月時点で14企業、5団体、2省庁)がそろっているので、川上から川下までを押さえたうえで、あるべき姿を作れる体制が築けているところが、このCR-WGの強みです。

参考)
産業構造審議会 産業技術環境分科会 廃棄物・リサイクル小委員会 プラスチック資源循環戦略ワーキンググループ
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/plastic_junkan_wg/index.html

今後、さらに資源循環を促進していくうえで、ケミカルリサイクルが果たす役割をどう捉えていらっしゃいますか?

野田:私たちは基本的に「モノマー化」「油化」「ガス化」のいずれかの手段を用いて廃プラスチックをリサイクルし、化学品原料に戻すことを「循環型ケミカルリサイクル」と呼んでいます。それが今後、化学系の企業が主として担うべき領域だと考えています。
2018年時点で廃プラスチックの総量はおよそ900万トン(※)にのぼりますが、2050年には、その半分以上を、この「循環型ケミカルリサイクル」と「マテリアルリサイクル」によって資源循環させること。それが現時点でのCR-WGの総意ですね。

※)出典:一般社団法人プラスチック循環利用協会
プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況(マテリアルフロー図)2019年12月発行
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf2.pdf

廃棄物に関する現状のルールや規制、市場規模が課題

ケミカルリサイクルを推進するにあたり、現状、課題となっているのはどういった部分でしょうか?

野田:まず、安定的に廃プラスチックを集めるのが困難なこと。今の日本では、一般廃棄物と産業廃棄物の処理方法が別の法律で定められていたり、収集そのものが各地方自治体に委ねられていたりと、さまざまな制約があるのが現状です。そのためケミカルリサイクルを積極的に行っていくためには、既存のルールや規制を見直さなければなりません。一方で、ケミカルリサイクルの手法(モノマー化等)によっては、複数の原料が混ざらないよう、細かい材料別の回収システムの構築が必要なものもあります。

次に、リサイクルされた製品を受け入れる市場がまだまだ小さいこと。現状では、「できればリサイクルされたものは使いたくない」という消費者の方が多いんです。ケミカルリサイクルの過程でエネルギーを使うため、原油から作ったプラスチック製品よりも製造コストがかかりますからね。リサイクル品に対して付加価値をつけるための認証制度も必要ですし、消費者側がそのコストを負担する意識を醸成していくことも重要となります。

一方で、GAIA (Global Alliance for Incinerator Alternatives)という団体が、「有毒な化学物質を環境に放出している」「カーボンフットプリントが大きい」「循環型経済に適合していない」「社会実装されていない」「エネルギーリカバリーやマテリアルリサイクルの方がいい」などとケミカルリサイクルに否定的なレポートを発信しています。CR-WGではそういった意見に対しても「これは世界が感じている課題だ」という立ち位置で真摯にとらえ、それに対してどういう対策が取れるかを考えて、シナリオを策定しています。例えば「ケミカルリサイクル工程で、環境への放出物の管理を徹底する」「社会実装可能な事業規模を確保する」「高効率で低エネルギー負荷のケミカルリサイクル技術を開発する」などが、策定した案です。

食品包装のケミカルリサイクルを推進するために必要なこと

今の日本では、一般廃棄物の約40%が食品包装ですよね。マテリアルリサイクルも資源循環に有効な手段の一つではあるものの、食品包装に使うプラスチックをマテリアルリサイクルすると、衛生面まで担保することが難しい側面があります。食品包装のケミカルリサイクルは、今後どうすれば広がるとお考えですか?

野田:最も大きな課題は、経済合理性が見出せるほどの廃プラスチックを、大量に集める手段です。例えばコンビニで買った食品を消費者の人が食べ、残ったプラスチック容器をまたコンビニで回収する仕組みを作るとします。そこに集まったゴミを、配送トラックが新しい商品と引き換えに持ち帰る ― いくつもハードルはありますが、それが可能になればプラスチックの回収率は上がるんです。

それらをマテリアルリサイクルするのは難しくとも、ケミカルリサイクルであれば、ガス化や油化によって資源の循環が可能になります。消費者の理解が得られ、関連企業が連携すれば、まったく実現不可能なことではないと思います。ただ現状のルールや規制に従おうとすると、集められたゴミを回収するには、配送業者側が産廃業者としての資格を取得しなければならないなどのハードルが存在します。

またケミカルリサイクルに関するわかりやすい認証マークなどを付与するなど、さまざまな取り組みを通じて、消費者の方にリサイクル品を使うことがクールである、当たり前であると感じてもらえるようなブランド戦略も必要となるでしょう。
これまでCR-WGが時間をかけて議論を進めてきた「あるべき姿」は、ようやく纏まりましたので、近日中に公開させていただきます

(2020年12月インタビュー)

※ インタビュー後に、一般社団法人日本化学工業協会様より、「廃プラスチックのケミカルリサイクルに対する化学産業のあるべき姿」策定が発表されました。
https://www.nikkakyo.org/news/page/8613