ソリューション特集 ライフサイエンス

感染症診断分野の強みと成長戦略

研究用試薬で培ったノウハウを生かして
新型コロナウイルスの体外診断用試薬を開発

大内 裕氏

取締役 兼 常務執行役員
ライフサイエンスソリューション本部長
大内 裕

2020年、新型コロナウイルス感染症が世界で爆発的に拡大する中、当社は4月に同ウイルスの研究用として新型コロナウイルス遺伝子検査試薬を発売しました。以降、研究の現場で役立てていただいています。さらに、7月には体外診断用医薬品を上市し、医療機関や検査機関に供給してきました。

もともと当社は、1980年代から遺伝子検査に用いられる研究用試薬を製造販売しており、その中には胃腸炎を引き起こすノロウイルスの検査に用いられる試薬がありました。新型コロナウイルスの検査とも技術的な類似性があったため、これを生かして社会に貢献したいとの思いから開発に着手しました。当社はこれまで20年以上、遺伝子検査分野の研究開発に継続的にリソースを投入し、技術をブラッシュアップしてきました。そのため技術基盤が確立できており、今回の開発もスピーディーに進めることができました。

なお、2021年6月にはイムノクロマト法を用いた体外診断用医薬品の新型コロナウイルス抗原検査キットも発売しました。

より高効率の検査方法を確立するために共同研究を推進

また、2020年度には検査の信頼性・安全性の向上、そして検体採取から結果判定までの時間短縮を目指した研究にも取り組みました。
結果判定までの時間短縮は、大量の検体検査に対応できるようになり、社会全体での検査の効率化につながります。そのため、検査の次世代型自動化システム確立を目指して、学校法人北里研究所、(株)椿本チエインとの共同研究を開始しました。同研究は、当社がこれまでに研究用試薬分野で培った実績を評価いただき、北里研究所からお声掛けをいただいたことに始まります。プロジェクトの意義に強く賛同し、共同研究に参加することを決意しました。なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の2020年度「ウイルス等感染症対策技術開発事業」(3次公募)「早期・大量の感染症検査の実現に向けて、新しい検査手法やシステム等の確立を目的とする開発・実証研究支援」に採択され開始したものです。

実験風景_トリミング済

この共同研究で採用している検査方法は、「プール法」と呼ばれるものです。今までは1人の唾液を採取し、それを一度テストし、陽性/陰性を検査していました。しかし、「プール法」であれば、5人の検体を集め、一つにまとめたものを検査することができます。仮に100人の検体を集めたとすると、通常100回検査しないといけないところ、全員が陰性であれば20回という5分の1の回数で済むというわけです。仮に一つ陽性が出れば、陽性が出たグループの5人の検体をもう1回検査するだけです。大幅に検査の回数を減らすことができるため、効率化とコスト節約につながります。

医療現場だけでなく、迅速かつ大量の検査体制が必要とされる空港などでの入国検査や、大規模な国際スポーツイベントなどでの検査体制構築への活用も視野に、本研究を進めています。

感染症診断のソリューションビジネスでNo.1を目指す

当社は遺伝子検査分野において、PCR検査用の試薬だけでなく、その原料も製造しています。例えば、健康診断などで中性脂肪やコレステロールの測定に使用される生化学検査薬の原料では、世界第2位のシェア(当社推定)を誇ります。また、バイオ技術、とりわけ酵素や抗体などの高機能タンパク質に関する技術も非常に高いレベルにあります。例えば、富山大学との共同研究により開発した、「新型コロナウイルスに対する抗体」を用いた抗原検査キットも高機能タンパク質に関する尖った技術が生かされた例です。なお、本製品に使用した抗体は、AMEDの2019年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」(2次公募)「SARS-CoV-2の臨床現場即時検査法開発に関する研究」に参画し、開発したものです。

これまで感染症に対する世界の注目度は高いものではありませんでしたが、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大で、グローバルでの対応が求められるようになっています。また、新型コロナウイルス感染症だけでなく、鳥インフルエンザなど、将来パンデミックが発生するリスクがある感染症が存在しており、その対策は重要な社会課題と見なされています。 今後、当社は感染症診断領域に積極的に投資し、ターゲットをより広く設定します。そして、国内だけでなくグローバルで、遺伝子検査だけでなく診断ビジネス全体を視野に入れ、“感染症診断のソリューションビジネス”におけるNo.1の地位を目指します。それによって、感染症まん延という世界的な課題の解決に向けて、これまで以上の貢献を果たしていきたいと考えています。

全自動遺伝子解析装置「GENECUBE®」

全自動遺伝子解析装置「GENECUBE®

(左から)「SARS-CoV-2 Detection Kit -N set-」「SARS-CoV-2 Detection Kit -N2 set-」

(左から)
「SARS-CoV-2 Detection Kit -N set-」
「SARS-CoV-2 Detection Kit -N2 set-」

総括部長メッセージ

曽我部 敦氏

バイオ事業総括部長
兼 バイオプロダクト営業部長
バイオ開発部長

曽我部 敦

“尖った”技術ができるまで

当社グループのPCRの歴史は長く、30年以上になります。KOD® というブランドのPCR用酵素の販売をスタートしたのが1995年で、その後ブラッシュアップとモデルチェンジを繰り返してきました。

PCR試薬の性能を高めるためには、主役となる酵素に加え、この働きを補助する物質も重要です。これらはどちらもタンパク質でできていますので、タンパク質をつくる技術に優れていないと、良い試薬はつくれません。

当社グループは長年の研究の中で、タンパク質の機能を高め効率良く生産する技術を磨いてきました。また、得られた高機能なタンパク質を配合することで試薬そのものの性能を高めるとともに、多様な“尖った”性能の試薬をつくってきました。

これらの成果を認めていただき、試薬の業界では高い認知度を誇っています。アカデミアの先生から最先端の技術を紹介いただく延長で、共同開発などをする機会も多いです。


曽我部 敦氏

バイオ事業総括部長
兼 バイオプロダクト営業部長
バイオ開発部長

曽我部 敦

“尖った”技術ができるまで
当社グループのPCRの歴史は長く、30年以上になります。KOD® というブランドのPCR用酵素の販売をスタートしたのが1995年で、その後ブラッシュアップとモデルチェンジを繰り返してきました。

PCR試薬の性能を高めるためには、主役となる酵素に加え、この働きを補助する物質も重要です。これらはどちらもタンパク質でできていますので、タンパク質をつくる技術に優れていないと、良い試薬はつくれません。

当社グループは長年の研究の中で、タンパク質の機能を高め効率良く生産する技術を磨いてきました。また、得られた高機能なタンパク質を配合することで試薬そのものの性能を高めるとともに、多様な“尖った”性能の試薬をつくってきました。

これらの成果を認めていただき、試薬の業界では高い認知度を誇っています。アカデミアの先生から最先端の技術を紹介いただく延長で、共同開発などをする機会も多いです。


研究用試薬に関する歩み

1982年 制限酵素3品目の販売から事業をスタート
1989年 当社初のPCR用酵素「rTth DNA Polymerase」の販売開始
1995年 現在の主力ブランドであるPCR用酵素「KOD® DNA Polymerase」の販売開始、以後改良を継続し現在に至る
2014年 ノロウイルスの検査用試薬「ノロウイルス検出キット」の販売を開始、以後改良を継続し現在に至る
2020年 当社の新型コロナウイルス遺伝子検査試薬が「病原体検出マニュアル2019-nCoV」(国立感染症研究所作成)に準じた方法として、公的医療保険適用の対象に承認