長期研究助成受贈者 代表感想文

2022年度 長期留学助成金受贈者

静岡大学 農学部

星野 颯さん

この度、東洋紡バイオテクノロジー研究財団(東洋紡バイオ財団)の長期研究助成を賜り、研究留学の機会をいただきました。本年度の助成金受贈者は、鹿谷有由希さん(京都大学大学院 理学研究科)、清水大さん(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)、西村聡さん(東京医科歯科大学 発生発達病態学分野)、秤谷隼世さん(名古屋大学大学院 理学研究科)、水田涼介さん(京都大学大学院 工学研究科)、星野颯(静岡大学 農学部)の6名です。

助成金贈呈書授与式は令和5年2月13日に、坂元龍三理事長、近藤滋選考委員長(大阪大学大学院 生命機能研究科 教授)、曽我部敦理事、石田由和事務局長のご列席のもと、東洋紡本社(昨年移転した新本社で大阪梅田ツインタワーズ32階)の大阪の街と海が一望できるすばらしい眺望の会議室およびオンライン中継にて執り行われ、受贈者全員が参加させていただきました。

授与式ではまず、石田事務局長に本助成の選考経過を説明していただきました。今年度は、25名から応募があり、選考委員会における厳正な審査、理事の承認、および最終選考を経て、6名が採択されることとなったそうです。贈呈書の授与では、受贈者一人一人が坂元理事長から贈呈書と激励のお言葉をいただきました。続けて、理事長よりご挨拶として東洋紡の成り立ちと東洋紡バイオ財団の設立経緯についてお話していただきました。

1882年、現在の東洋紡の基盤の一つとなる大阪紡績が、近代日本経済の父である渋沢栄一(2024年には新一万円札の肖像画にもなることでもお馴染み)により創立されました。1914年、三重紡績と大阪紡績が合併して現在の東洋紡となりました。東洋紡は創立当時から現在まで、渋沢栄一の座右の銘「順理則裕(道理に生きることが繁栄に繋がる)」を企業理念とし、経済価値と社会価値の両立に重きを置く会社経営を貫いてきました。その歩みの中では、変化を恐れず、社会に変革をもたらしたいという信念を大切にし、紡績業からフィルム事業や医薬品事業へと、時代性に合わせ事業を転換してきました。1982年の東洋紡創立100周年に東洋紡バイオ財団が創立されると、それから40年、長期研究助成を受け研究留学を実現させた若手研究者は、220人に上り、帰国後も多くの方が研究の世界で活躍されているとのことでした。このような東洋紡の歴史やその時々の思いを坂元理事長から直接お聞きする中で、“一貫した理念を持つ”、“自社成長のみならず社会への貢献も常に意識する”、“現状に甘んじず挑戦を楽しむ”といった東洋紡の哲学は、我々の日々の研究にも通ずる重要なことであると改めて気付き、留学を前にしてそれらを胸に刻むことができました。

坂元理事長のお話の後、受贈者各々が自己紹介と留学先での研究テーマの説明を行いました。ソルボンヌ大学に留学される鹿谷さんは「クラゲ Clytia hemisphaerica (ヒドロ虫類) を用いた腸管の形態形成における蠕動運動の力学的役割の解明」、コロンビア大学アービング医療センターに留学される清水さんは「臓器創生法でしかできない新たな肺線維症 in vivo モデルの開発と解析」、カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学される西村さんは「E プロテイン誘導性の Bcl11b エンハンサーの非コード RNA 転写と核内移行によるαβおよびγδT 細胞運命決定の機序の解明」、昨年秋より既にチュービンゲン大学に留学中の秤谷さんは「標的 mRNA 応答性のタンパク質翻訳システム」、ミシガン大学に留学される水田さんは「ペプチド模倣スマートポリマーによる細胞外小胞の機能制御」、プリンストン大学に留学する星野は「薬剤耐性菌感染症の克服に向けた新たな抗生物質生産法の確立」という研究テーマについて、これまでの経歴や抱負を含めてお話しさせていただきました。各受贈者が嬉々として自身の研究について話す姿には、研究への熱意や留学への意気込みが強く感じられ、とても勇気づけられました。また、このような様々な興味を持つ研究者に助成いただけることから、東洋紡バイオ財団が多岐に渡るバイオテクノロジー研究に期待を寄せていることも窺い知れました。

続いて、近藤選考委員長より激励のお言葉をいただきました。様々なメッセージをいただいた中でも印象的だったものとして、本助成の選考委員会では、ただ優れた研究テーマ・申請書を助成するのではなく、その向こう側にいる研究者その人自身を助成したいという思いの下で、話し合いが重ねられたと伺いました。また近藤先生には、世界の誰も知らないことに常に挑戦しなければならない研究者は、根拠のない自信を持つことも重要であると説いていただきました。選考委員会や東洋紡バイオ財団の皆様より留学での活躍を期待され、贈呈式を迎えられたことに思いを馳せると、この日は助成金贈呈書だけではなく、研究者としての自信もいただけたのではないかと感じています。

贈呈式が終わると、綿業会館にて見学と会食をさせていただきました。綿業会館は、故 岡常夫氏(東洋紡績株式会社専務取締役)の遺贈金により、繊維業界の発展と懇親を目的として1931年に竣工されました。会館スタッフの方に説明いただきながらの見学では、世界中の客人の受入を念頭においた内装が異なる部屋の数々、大阪大空襲にも耐えた鋼鉄ワイヤーを内装した耐熱ガラス窓、一枚一枚色合いが違う1000枚の泰山タイルが敷き詰められた壁、アンモナイトの化石が内包された大理石の床などを見て、当時の建築技術や美的センスの高さを随所に感じることができました。現在では国の近代化産業遺産に認定され、昨夏のTVドラマ「名建築で昼食を〜大阪編〜」の舞台となるなど、観光名所としても人気の歴史的建造物です。僭越ながら、綿業会館の見学を読者の皆様にもお勧めさせていただきます。会食では、博士号を取得して1年目のポスドク(私)では到底手が出ないような素晴らしいフランス料理をいただきながら、留学や研究について談笑させていただきました。コロナ禍を経て、このような特別な場を4年ぶりに設けていただいたことで、同じ境遇で留学する者同士で情報交換ができ、またこれまで数百人の留学生を送り出してきた財団の皆様から貴重なアドバイスいただけ、かけがえのない時間を過ごすことができました。

研究留学は、今まで論文でしか知れなかった憧れの研究者たちがいる環境に飛び込み、彼らが日々何を見て、どう考え、どのように研究に取り組んでいるのかを肌で感じながら、自身も研鑽を積むことができる絶好の機会だと思います。一方で、言語のみならず文化・価値観に至るまで、あらゆるものが異なる海外での生活には不安もあります。その状況下で、東洋紡バイオ財団に背中を押していただけることは大変心強く感じています。この留学で成長して帰国した暁には、研究を通じて社会や科学の発展に寄与できればこの上なく嬉しく思います。末筆ではございますが、東洋紡グループの今後益々のご発展を祈念いたしますとともに、このような研究留学の機会を与えてくださった東洋紡バイオテクノロジー研究財団に心より感謝申し上げます。

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