検出試薬はその想定用途に応じて二つのカテゴリに大別される。ひとつは薬事承認を経て、医療機関等の臨床で使用される体外診断用医薬品。もうひとつは薬事承認の対象ではない、専門家が調査研究等に用いる研究用試薬だ。感染拡大に伴いPCR検査数の増加が急務となったことで、厚生労働省は特例として研究用試薬を用いて行政検査として実施されていたPCR検査を医師の判断で使用可能とし、さらに3月には保険適用とした。こうした背景を受けて2020年2月、研究用試薬の開発を手がけるバイオグループは、新型コロナウイルス検出試薬の研究開発に乗り出した。「通常なら開発に1~2年を要しますが、今回はコロナ禍の中、製品の早急な供給が求められていたので、数カ月という短いスパンで開発する必要がありました」。バイオグループリーダーの山崎はそう話す。
PCR検査で新型コロナウイルスの陽性・陰性を正確に判定するには、検出試薬によってウイルスの中に含まれる遺伝物質RNAを増幅する必要がある。「東洋紡は、RNAを遺伝物質に持つノロウイルスの衛生検査に関する基盤技術を保有しています。そのノウハウを応用して、『SARS-CoV-2 Direction Kit』の短期間での開発に成功しました。一番の特長は、従来の検出の過程において不可欠だったRNAの精製を省略できる点です」。2月に開発をスタートしてから、4月には販売開始にこぎつけるという異例のスピードだ。しかし第2波の到来など、世間の状況は刻一刻と変化。検出試薬に期待される機能も徐々に変わっていった。