ESG投資家との対談

東洋紡株式会社 代表取締役社長 兼 社長執行役員 楢原誠慈、コモンズ投信株式会社 取締役会長 兼 ESG最高責任者 渋澤 健氏東洋紡株式会社 代表取締役社長 兼 社長執行役員 楢原誠慈、コモンズ投信株式会社 取締役会長 兼 ESG最高責任者 渋澤 健氏

当社グループ創業者 渋沢栄一の玄孫であり、日本株の長期集中投資ファンドなどを運用するコモンズ投信(株)の渋澤 健氏をお招きし、当社グループのサステナビリティの実現について当社社長の楢原との対談を実施しました。

  • ※ 対談は、2020年5月15日、ウェブ会議システムを使用して開催しました

現代社会において『論語と算盤』を実践し
サステナビリティを実現していくために

  • ※ 渋沢栄一の語った経営哲学をまとめた書物。「論語」は道徳、「算盤」は利益を表し、論語の精神に基づいた道義にのっとった商売をし、儲けた利益は、社会のために使うことを説いた

創業者への思い
「渋沢さん」の意思を受け継いで

楢原創業者の渋沢さんは、日本資本主義の父と呼ばれ500社余りの民間企業の設立に関わられましたが、企業は社会的な存在であると仰っていました。当社は渋沢さんに『順理則裕』という言葉を残していただき、これは現在まで連綿と受け継がれ、私たちの考えのベース、経営の柱、判断の基準となっています。この言葉があったからこそ、100年以上の長きにわたって事業を続けてこられたのだと思います。

渋澤まず、社内で「渋沢さん」と呼んでいただき、親しみを感じていただいていることを非常にうれしく思います。
渋沢栄一のライフワークは、一言で表すと「日本という国の国力の向上」だったと思っています。彼が生まれたのは、身分によって将来が決まってしまい、商人はいくら頑張っても武家よりも評価されなかった時代です。そこで彼は、国力を向上させるためには、さまざまな立場の人が機会を平等に与えられ、力を発揮できるようにならなければいけない――。そう考えたのだと思います。また、約500社の会社に関わった背景には、こうした怒りにも似た思いがあったのではないかと思っています。

楢原当社は渋沢さんの発案で民間の出資から始まっている会社です。恐らく海外視察された時に、産業、インフラを民間の企業が支えているのをご覧になって、日本もこれをやるべきだと思われたのだと想像しています。

渋澤国力を向上させるには民間の力が重要であり、中でも紡績業が日本の基幹産業になると目を付けたのでしょうね。

経営の指針
『論語と算盤』の「と」の力

楢原当社グループは繊維事業中心からスペシャルティ事業中心へとポートフォリオを改革し、安定した収益を上げられるようになったのですが、ここからさらなる成長を目指すべく、2018年度に理念体系を再整理しました。「さあ新しい東洋紡として頑張ろう」というステージを迎えた今、改めて「何のために」頑張るのかを明確にしたかったからです。

その中で、渋沢さんが残してくれた『順理則裕』という言葉に改めて向き合いました。これまでは「順理」というのを主に「間違ったことをしないこと」と解釈していましたが、著作の『論語と算盤』などを読んでみると、「理」は論語を指しているのだと考えるようになりました。渋沢さんによれば、論語の中で一番大事なことは、困っている人を助け、社会をゆたかにすることです。現代に置き換えてみると、「培った技術や人材で、社会や世の中の課題を解決しゆたかにすること」が重要なのであり、その結果として自らもゆたかになる――。それが『順理則裕』に込められた渋沢さんからのメッセージなのだと思うようになりました。渋澤さん、この解釈はいかがですか?

渋澤その通りだと思います。『論語と算盤』のテーマは、今の時代でいうとまさに「サステナビリティ」であると思います。算盤すなわち利益の追求は事業活動のために不可欠ですが、それだけではどこかでうまくいかなくなってしまう。一方、世の中が著しく変化する中で論語すなわち固定的な道徳的価値観でしか考えないというのも持続性に乏しいのではないかと思います。論語と算盤を未来に向かって走る車の両輪だとすると、論語だけとか算盤だけを追求する「論語か算盤」では、片方の車輪だけが大きく、真っすぐ進めない状態です。「論語と算盤」は両方合わせてこそ力を発揮する、つまり「と」の力が重要だと渋沢は考えていたと思います。

会社のパーパス(存在意義)
アフターコロナを見据えて

渋澤先ほどの「何のため」に頑張るのかという話にも通じますが、最近、さまざまな企業が「パーパス※1」という概念を重視するようになっています。よく理念に使われるミッションという言葉は、会社や従業員が“what we do”、何をするかですが、パーパスは“why we do”、なぜそうするかを明確にするものです。

楢原仰る通り、当社のパーパスは、渋沢さんが『順理則裕』に込められた「世の中の課題解決に貢献することをしよう」ということだと思います。組織体制を変更したのも、この考えからです。社会課題を解決するなら、提案するソリューションの単位で組織をまとめた方が良いという発想で、ソリューション単位の事業本部にしました。

『順理則裕』を皆で共有していく中でも、「何のために」が明確になっていると、ただ「利益を増やせ」と言われて仕事をするのとは、モチベーションの高さが全く違うということに気が付きました。理念体系を再整理してから、社会課題にどう貢献できるかということを一人一人が一生懸命探して取り組むという雰囲気がグループ全体に出てきていると感じます。

渋澤金融市場でもそういった企業を評価することが増えています。私自身がコモンズ投信を立ち上げたのは、日本企業の持続的な価値創造を応援するためであり、そのような企業は必ず何らかの社会課題を解決していると思います。

楢原誠慈

楢原投資家が「論語と算盤」を実践している会社に投資をしてくださるのは、渋沢さんの教えを守って事業を続けてきた企業としては非常にうれしいことです。社会課題の解決に貢献しようという意識を世の中全体が持つようになると、サステナブルな社会が実現できるのではないかと思います。

渋澤以前は、企業は会社を合理的に回して株価を上げていけば良いとされていました。しかし、それによって社会全体のうち一部の人たちだけがゆたかになり、格差が出てきてしまったことで、「算盤的にはうまくいっていても、このままで社会全体は持続可能なのか?」という懸念が出てきました。ダボス会議※2で「ステークホルダー資本主義※3」が取り上げられたのが良い例です。

そのような中で今回、新型コロナウイルス感染症が発生しました。私はウィズコロナ、アフターコロナの世界でこそ、SDGsやESGの真価が問われると思っています。

楢原このウイルスの登場によって、これから世の中は大きく変わっていくと思います。直接関連する分野では、当社グループは新型コロナウイルスの検出に用いられる研究用試薬を従来の20倍まで増産し、日本や中国の検査機関に出荷してきました。また、従来よりも検出・測定時間を短縮した検出用の研究用試薬も発売しました。

今後も我々のできることを全力でやっていきたいと考えています。例えばノロウイルス付着を調べる技術を以前開発したのですが、それを新型コロナウイルスに応用できないか検討を進めています。また、当社グループの食品包装用フィルムは国内で約40%のシェアを持っていますが、ウイルスが付着しにくいフィルムやウイルスを死滅させられるフィルムの開発にも取り組んでみたいと考えています。

事業運営においても変革が必要と考えています。新しい生活様式の導入によって、働き方改革や業務のデジタル化がますます重要になっていくでしょうし、リスクマネジメントも従来以上に強化していかなければならないと認識しています。

  • ※1 近年、経営戦略やブランディングのキーワードとして用いられることが多く、その場合は企業や組織、個人が何のために存在するのか、すなわち「存在意義」のことを意味する
  • ※2 経済学者クラウス・シュワブにより設立された世界経済フォーラムが年に一度開催する国際的な会議。知識人やジャーナリスト、政財界のリーダーなどが一堂に会し、世界が直面する重大な問題について議論する場となっている
  • ※3 企業は株主の利益を最優先とするのではなく、従業員や顧客、地域社会、地球環境などの幅広いステークホルダーに配慮しなければならないという考え

持続的な成長に向けて
業界のフロントランナーへ

渋澤 健氏

渋澤紡績業界は、日本の産業の中でも最も、変化と進化を続けてきた業界だと思いますが、その中で東洋紡さんにはフロントランナーになっていただきたいと期待しています。楢原さんのお話をお伺いしていると、一番渋沢栄一の本質を理解いただいていると思ったからです。

そのためにまず重要なのはコミュニケーション力、対話力です。投資家だけではなく、社会のさまざまなステークホルダーに応えていくための対話が必要だと思います。また、SDGsなども、単にコミットするだけではなく、社長がどういうパッションを持ち、どんな方向に向いているのかを社内外に発信していくことが大事です。

楢原私も自身の考えを自分の言葉で伝えることは大事だと思い、これまでも事業所を訪れて従業員と話す機会を設けてきましたが、全員に届けるのは非常に難しいと感じていました。そこでこの4月の組織改編については、その理由や狙い、今後の方向性などを語った動画をイントラネットに載せたところ、大きな反響がありました。

渋澤テクノロジーを駆使すれば今日のように上場企業の代表取締役社長ともオンラインで会話できる時代ですからね(笑)。

楢原会えないから対話できないと諦めるのではなく、工夫すればこれまで以上にステークホルダーとコミュニケーションをとっていけると考えています。

渋澤次に、コーポレート・ガバナンスについてお伺いしたいと思います。取締役10人のうち4人を社外取締役としているのは非常に素晴らしいと思いますが、社内取締役や執行役員に女性や外国人がいないことについてどのようにお考えですか?

楢原ここ5年は大卒採用の4割前後を女性としたり、キャリア採用なども積極化して外部から人材を迎えることも多くなっています。その意味では、ゆっくりとではありますが、将来の執行役員、取締役の多様性確保に向けて着実に前進しています。

渋澤また、今後企業には自分たちが社会に与えるインパクトを報告することも求められるようになると思います。

楢原仰る通り、いわゆる「社会的インパクト」を数値化して開示していく必要があると思います。まずはその第一歩として、2020年5月にマテリアリティを特定しました。今後、このマテリアリティごとにKPIを設定して取り組みの進捗を管理するとともに、その結果を社内外に発信していく予定です。

渋澤さらに言えば、東洋紡さんには繊維から始まった素材のリーディングカンパニーとして、国際的なルールメイキングなどにも積極的に参加していただきたいと思っています。

楢原2019年8月には、軟包装分野で循環型経済の実現を目指す欧州のコンソーシアム「CEFLEX(Circular Economy for Flexible Packaging)」に参画しました。まず、こうした国際的な会合に参加するところから始めていこうと思っています。

まだまだ課題はありますが、渋沢さんが残してくれた『順理則裕』の精神を、これから先も次世代へと受け継いでいくことで、持続的な成長を成し遂げたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

渋澤こちらこそ、よろしくお願いいたします。

渋澤 健氏

コモンズ投信株式会社
取締役会長 兼 ESG最高責任者
渋澤 健

国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年に(株)コモンズ(現 コモンズ投信(株))を設立し、2008年に会長に就任。