トップメッセージ

『順理則裕』は、創業以来連綿と受け継いできたDNA。
長期的な視点で、世界が抱える課題を見極め、東洋紡の尖った技術で、その解決に貢献していきます。

楢原誠慈

東洋紡株式会社
代表取締役社長 兼 社長執行役員
楢原誠慈

去る9月27日夜に当社犬山工場で火災が発生しました。この火災により従業員2人の尊い命が失われ、1人が負傷しました。本事故により、お亡くなりになられたお二人のご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族に対して心よりお悔やみ申し上げます。

また、近隣住民の皆さまをはじめ、関係の皆さまに多大なご迷惑とご心配をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございません。

当社では2018年に発生した敦賀事業所第二の火災を踏まえ、二度と火災事故を起こさないという決意で「防災週間」を設け、防災にスポットを当てた訓練や活動を強化しているところでした。また、外部専門家の指導も受けながら活動に取り組み、防災関係の設備投資も進めていました。そのさなかの事故であり、最も大切な従業員の命を犠牲にしてしまい、痛恨の極みであります。

従業員が安心して働ける安全な職場をつくることは、会社、ひいては社長である私が果たすべき最も重要な責務であります。安全・保安防災を経営上の最重要事項として改めて位置付け、その具体的な施策として2020年12月1日付で社長直轄の組織「安全・保安防災推進本部」を新設し、一層の機能強化を図ります。今後、絶対に事故を起こさない安全な会社を築くという固い決意で、全身全霊をかけて徹底的に対策を講じていく所存です。

安全を最優先した新型コロナウイルス感染症への対応

新型コロナウイルス感染症によって亡くなられた方のご冥福をお祈りすると同時に、治療中の方の一日も早い回復をお祈りいたします。そして、治療の最前線で、信念を持って働いておられる医療従事者の方々に感謝申し上げます。

東洋紡グループでは、新型コロナウイルス感染症への対策として、従業員とそのご家族の安全を第一に考えました。それが従業員とご家族はもとより、お客さま、事業、そして社会を守ることにつながると考えたからです。緊急事態宣言時は、本社・支社では基本的にテレワークとし、1割〜2割の出社率に抑えましたが、その後、状況の変化に応じ、柔軟な勤務体制としています。おかげさまで従業員とその家族の安全を守りながら、大きな支障もなく事業を継続できていることについて、関係者の皆さまに深く感謝しています。

世の中に不可欠なものの供給を止めないために

一方で、工場では操業を止めることはできませんので、テレワークは現実的ではありません。従業員の安全を守りながら、どう操業するかを考え、ソーシャルディスタンスを確保できる環境の整備をするとともに、万一陽性者が出ても全操業を止めなくてもよい態勢を整えました。工場勤務者も世の中に不可欠な製品を作っているということに誇りとやりがいを持ってくれています。

サプライチェーンに関しては、以前から複数購買を進めていますが、これからは複数「方面」購買も視野に入れねばならないと強く感じています。複数の国・地域からの調達はもちろん、サプライチェーンが分断された場合、国内の調達先はないか、さらには内製化できるものはないかなど、10年くらいの長いスパンで見て、最も効率のよい調達方法を考えているところです。

このコロナ禍によって、当社グループの業績も影響を受けていますが、ライフサイエンス事業では、PCR検査の試薬や試薬の原料、検査キットを手掛けており、世の中の要求に応える製品として全力で増産対応しているところです。また、非常に気密性の高い、当社の車載エアバッグの素材を利用して、豊田合成(株)などと協働で防護服を作り、医療機関に提供しています。

DNAとして受け継いできた『順理則裕』

当社グループは、紡績会社としてスタートしましたが、創業以来およそ140年の間には、事業を取り巻く環境は何度も大きく変化しました。その時代の変化に合わせ、当社はフィルムや樹脂、あるいはライフサイエンス事業を立ち上げるなど、事業ポートフォリオを変化させ、安定した収益構造を実現しています。

近年、東洋紡の立ち位置は、生き残りのために繊維事業を中心にダウンサイジングを余儀なくされたステージから、フィルム、樹脂、ライフサイエンス事業を中心とした新たな成長・発展を目指すステージへと変わってきました。この大きな転換点で一度立ち止まり、これからの東洋紡は、何のために成長・発展しなければならないのか、すなわち我々のミッションは何なのかを改めて確認するために、2018年から2019年にかけて議論を重ね、理念体系の整備を行いました。

我々の理念の柱となるのは、創業者・渋沢栄一の『順理則裕』です。この言葉にはいくつかの解釈がありますが、渋沢さんは「理は道徳であり、道徳の一番大事な点は世の中で困っている人の問題を解決して、さらにゆたかにしていくこと」と言っています。140年前の日本には、良質で安価な綿糸や綿布がなかったから、国内で作れるようにしようと、現在の東洋紡を創立した経緯があります。世の中が困っていることを解決することにより、真っ当な対価を得られて事業として成り立ち、利益をあげれば、さらに世の中の役に立つことができる。この循環が機能していくと、世の中も会社もよくなっていく。これが渋沢さんの『順理則裕』に込めた一番の思いで、今、まさに言われているCSV(Creating Shared Value)の考え方を先取りしていたと私は確信しています。

そのような視点で当社のこれまでを見ていくと、『順理則裕』の理念をDNAとして、連綿と持っていたのだと思います。だからこそ、世の中の課題解決に貢献する事業が、現在の東洋紡を支える事業となってポートフォリオ改革がうまくいったのだと思います。

サステナビリティとは、社会や経済が持続して発展していくことですが、もう一つ忘れてはならない大切なことは、「他のなにも犠牲にしない」ということだと思います。人権や環境、次世代などの未来を犠牲にせず、社会・経済を持続的によくしていくことこそが、私の考えるサステナビリティであり、当社グループのCSVです。

10年後、30年後、世界に貢献できる会社であるために

東洋紡の10年後、2030年のあるべき姿は、世の中の課題解決に役に立ち、真っ当な対価を得て自らも成長している会社になっていることです。ただ、我々が世の中の課題解決に貢献したいといっても、世の中に選んでもらえなければ貢献することはできません。そのためには、社会の役に立つ尖った技術・製品を次から次へと作り出していけるような会社にならねばなりません。10年先の世の中の課題を想定し、貢献できるソリューションを見極め、我々が持っている尖った技術を磨きながら、そこに向かってマイルストーンを決め、確実に実現していくことが大切です。そういう努力を重ねることで、例えば、「環境に優しくて高機能なフィルム」といえば東洋紡、「安全・安心で快適な移動空間」の提供、さらには「ライフサイエンス領域における尖った技術」といえば東洋紡、と言っていただけるような会社にしていきたいと思っています。

また、気候変動対応は極めて大きな課題の一つであり、当社グループは2050年度に温室効果ガス排出量をネットゼロ(実質ゼロ)とすることを目標としています。これは、当社の事業所・工場や製品に関連するCO2を減らすだけで達成できるものではなく、当社が保有する海水淡水化や血液透析などに活用される膜の技術によって達成しようとしています。現在すでに、CO2を分離するためのCO2分離膜プロジェクトをスタートさせており、まさに世の中の課題を解決するソリューションとして、全力を挙げて取り組み始めたところです。

「人と地球に求められるソリューションを創造し続ける」ために
マテリアリティを特定

理念体系は抽象的な概念であるため、具体的に何に取り組んでいくかということを、従業員にも対外的にも明確に宣言すべきという観点から、めざす姿を実現するために取り組むべき重要課題として「東洋紡グループのマテリアリティ」を特定しました。

「人と地球に求められるソリューションを創造し続ける」グループとなるために、マテリアリティとして、事業を通じた貢献であるソリューション提供力、製品のライフサイクルマネジメント、温室効果ガス削減、環境負荷低減、人材マネジメント、データ・セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスを選びました。そしてこの取り組みとその進捗をステークホルダーの皆さまにしっかりとお伝えします(ステークホルダーコミュニケーション)。

また、このコミュニケーションを通じて得られたご意見を取り入れて、マテリアリティも進化させていきますので、ぜひ忌憚のないご意見をお寄せください。

国際イニシアチブへの参画とプラスチック再資源化事業立ち上げ

2020年1月、グローバルに要請される事項を踏まえた取り組みを加速すべく、UNGC※1に署名するとともに、TCFD※2提言への賛同を表明しました。このように国内外のイニシアチブ等に積極的に参加するとともに、今後はグローバルスタンダードに則した開示を強化します。

また、2020年6月、プラスチックのバリューチェーンを構成する12社で、世界共通の課題となっているプラスチック問題の解決に取り組むため、使用済プラスチックの再資源化事業に取り組む共同出資会社・(株)アールプラスジャパンを立ち上げました。アールプラスジャパンでは、アメリカのベンチャー企業が開発した、使用済プラスチックを直接原料に戻す画期的なケミカルリサイクル※3の技術を核としています。東洋紡グループは、環境負荷の少ない効率的なプラスチックの再資源化を推進していきます。

  • ※1 国連グローバル・コンパクト
  • ※2 気候関連財務情報開示タスクフォース
  • ※3 ケミカルリサイクル:使用済みの資源をそのままではなく、化学反応により組成変換した後にリサイクルする手法

最も重要なステークホルダーはお客さまのさらに先にいる人と地球

私は、最も重要なステークホルダーは、お客さまとその先にいる究極のお客さまである「人と地球」だと考えています。非常に広義のお客さまです。さらには、当社グループを支えてくれている従業員とお取引先さま、株主や地域社会、そして地球環境も含まれます。

このようなステークホルダーのお役に立つためには、「人と地球」の課題が何なのか、その中で東洋紡グループが解決に貢献できることは何なのかをしっかり見極め、当社の尖った技術がマッチするところを見付けて注力しなければなりません。お客さまに選ばれることで、課題解決の機会を増やし、その対価である収益を確実に拡大成長させ、株主を含むステークホルダーの皆さまに還元します。

東洋紡グループは、『順理則裕』~世の中の課題を解決することで社会をゆたかにし、自らも成長する~にかなった未来を切り拓いていきます。どうぞご期待ください。