生物多様性
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考え方・方針
当社グループは、「東洋紡グループ地球環境基本方針」の中で「良き企業市民として、社会や地域における環境保護や生物多様性保全活動への支援・参画に積極的に取り組む」ことを掲げています。私たちの事業活動が生態系に与える悪影響を最小限にとどめるよう努め、地域と連携した保全・保護の取り組みなどによりネイチャーポジティブの実現を目指します。
<生物多様性保全の行動指針>
私たちは、生物多様性が持続可能な社会に欠かせないものであると認識しています。人と地球に求められるソリューションを創造し続けるグループとして、自らの事業活動が生物多様性保全に与える影響を理解し、さまざまな活動を通じて3つの多様性(種、遺伝子、生態系)の保全に取り組みます。
- 当社グループの事業活動が生物多様性にどのように依存し、また影響を与えているかの把握に努め、負の影響を回避もしくは最小化することに取り組みます。
- バリューチェーン全体において、生物多様性保全への配慮に努めます。
- 生物多様性に配慮した製品や技術の開発を推進し保全に貢献します。
- 社員の参画や地域社会・NGOなど多様なステークホルダーとの連携や協働を通じて、保全活動を支援・推進します。
- 生物多様性に関する国内外の取り決めを順守します。
生物多様性保全の参画状況
経団連「生物多様性宣言(行動指針とその手引き)」や環境省「生物多様性民間参画ガイドライン」を尊重し、行動指針に基づいて活動を進めています。
年月 | 取り組み内容 |
---|---|
2021年11月 | 「生物多様性保全の行動指針」を策定 |
2022年1月 | 経団連生物多様性宣言イニシアチブに賛同 |
2022年11月 | 「生物多様性のための30by30アライアンス」に参画 |
2023年前期 | 社有林の一か所が環境省「自然共生サイト」へ認定 |
2024年8月 | 社有林の一か所が「OECM国際データベース」へ登録 |
リスクの特定
東洋紡グループの事業活動と生物多様性の関わり
当社グループの全生産拠点(国内、海外)について、IBAT※1を用いて、拠点の周囲1km以内に保全すべき希少生物や自然環境(世界自然遺産、IUCN※2保護地域管理カテゴリーⅠ~Ⅵ、ラムサール条約※3湿地)がないか調査し、以下の拠点をピックアップしました。
これらの拠点では、生物多様性行動計画(BAP)として、各地域の実情に合わせた取り組みを設定し活動を開始しました。2023年度より全社レベルの会議(地球環境保全会議)においてその進捗確認を行い、生物多様性保全をさらに推進します。
- ※1
- IBAT: Integrated Biodiversity Assessment Toolの略。国連環境計画(UNEP)などが参画している世界保護地域データベース
- ※2
- IUCN: International Union for Conservation of Natureの略。国家、政府機関、非政府機関で構成される国際的な自然保護ネットワーク
- ※3
- ラムサール条約: 正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」。さまざまな生物の重要な生息地であり人間の暮らしを支える貴重な資源である湿地を、国際協力により保全し賢明な利用を進めていくことを目的としている
保全すべき自然環境が周囲にある拠点
拠点名 | IBAT評価結果 | 説明 |
---|---|---|
東洋紡 岩国事業所 東洋クロス 岩国事業所(山口県岩国市) |
景観保護地域 資源保護地域 |
国立公園の一部、または国定公園 天然資源の持続的利用のために保護すべき地域 |
東洋紡 総合研究所(滋賀県大津市) | 種と生息地管理区域 | 生息地等保護区、国指定鳥獣保護区 |
東洋クロス 樽井事業所(大阪府泉南市) | 資源保護地域 | 天然資源の持続的利用のために保護すべき地域 |
日本エクスラン工業 東洋紡フォトケミカルズ(岡山県岡山市) |
資源保護地域 | 天然資源の持続的利用のために保護すべき地域 |
東洋紡 敦賀事業所(福井県敦賀市)※ | 種と生息地管理区域 | 生息地等保護区、国指定鳥獣保護区 |
東洋紡エムシー 高砂工場(兵庫県高砂市)※ | 資源保護地域 | 天然資源の持続的利用のために保護すべき地域 |
- 東洋紡 敦賀事業所、東洋紡エムシー 高砂工場: 保護すべき地域は拠点から1km以上(2km未満)の地点に存在しますが、今回活動の対象に含めています
事業活動と生物多様性の関連性
当社グループの事業活動と生物多様性の関係性を下図のように整理しました。この図はJBIB(Japan Business Initiative for Biodiversity:一般社団法人企業と生物多様性イニシアチブ)の「企業と生物多様性の関係性マップ」を参考に作成しました。
環境負荷低減の取り組み
生物多様性への負のインパクトを最小化するため、下記の取り組みを行っています。
事業所・工場から排出される環境負荷物質の削減
当社グループは、「東洋紡グループ地球環境基本方針」の下、大気・水域へ排出される化学物質について、法規制値よりも厳しい自主基準値を設定し徹底した管理をするとともに排出削減に取り組んでいます。
2030年度に向けた削減目標とその実績は、化学物質管理の項目をご覧ください。
製品開発時の環境影響評価(エコレビュー制度)
当社グループは、1998年より環境保全の観点から製品の環境への負荷度を評価するシステムとして「エコレビュー制度」を運用しています。この制度では、当社の製品や技術について、原材料から廃棄に至るまでのステージごとに、「温暖化防止」「化学物質削減」「省資源」「廃棄物削減」「環境貢献」「生物多様性」の観点で評価を行います。エコレビューは、研究開発から製品化に至るまでの各ステージで実施するため、研究開発段階で改善が必要と判断されたテーマは、次のエコレビュー実施時までに改善されることになります。これにより、製品や技術を開発しながら、環境への負荷をより低減させ、生物多様性保全を含む環境により貢献できる製品に改善されていく仕組みとなっています。
瀬戸内海の生物多様性保全のためのクリーンアップ活動の実施
生物多様性保全上重要な地域の一つである瀬戸内海の周囲には、当社事業所およびグループ会社(岩国事業所、東洋紡エムシー 高砂工場、東洋クロス、日本エクスラン工業、東洋紡フォトケミカルズ)が立地しています。これらの事業所・工場・会社では、年1回以上、海岸や瀬戸内海に注ぐ河川のごみを拾う清掃活動を行っています。
日本エクスラン工業での活動の様子
また、瀬戸内海以外のエリアにおいても、活動範囲を広げ、当社グループとして生息環境の保全に取り組んでいます。
豊科フイルムでの活動の様子
犬山工場での活動の様子
ネイチャーポジティブの取り組み
総合研究所
総合研究所の生物多様性保全の取り組み
総合研究所はIBATのリスク評価による「種と生息地管理区域」である琵琶湖に隣接しています。琵琶湖だけでなく川や里山などの生物多様性の残る恵まれた立地に感謝し、人と生物が共生できる環境を目指した保全活動に取り組みます。
生物調査
2023年度に研究所内の植物・昆虫・鳥類・両生類・爬虫類・哺乳類・水生生物を調査しました。結果として生物種数は約600種、うち在来種約500種、外来種約100種、レッドデータブック掲載約20種が発見されました。ヤナギやエノキなどの湖畔林があり、調整池にヨシ原が生育し、琵琶湖で繁殖するトンボ・水生生物類が見つかったことから、総合研究所は琵琶湖の名残や繋がりがある「人と琵琶湖の緩衝帯」であるとわかりました。2024年3月に行った調査報告会には、オンラインを含めて約100名が参加し、総合研究所の豊かな自然に改めて触れることで、生物多様性保全への意識の向上につながりました。
今後は、これまでの調査結果を元に、地域に適した保全を計画していきます。
生物調査の様子
湖岸クリーンアップ活動
毎年、研究所内および近隣エリアにおいて清掃活動を実施し、特に琵琶湖岸でのゴミ拾いや雑草の除去に力を入れています。生物調査の結果を受け、2024年度からは同時に研究所内の特定外来生物駆除作業も開始しました。活動当日は協力会社を合わせて524名が参加しました。これらの活動は、従業員の意識向上と周辺の美化による地域貢献につながっています。今後も豊かな生態系保全に努めます。
東洋紡「綾の森」
当社グループは、1950年代から化学繊維原料(木材パルプ)の国内自給を目的に、山林を購入してきました。その後、化学繊維の事業構成変更による原料供給の使命を終え、一部山林のみを木材生産目的で保有しています。
水源涵養保安林として機能を維持しながら林業活動を展開するとともに、周囲に広がる豊かな照葉樹林との連続性を重視し、人と自然との共生を目指した持続可能な森林管理を実施しています。
東洋紡「綾の森」の生物多様性保全の取り組み
宮崎県綾町に位置する社有林において、2022年度より生態系モニタリング調査を開始しました。調査を通して希少な生物(種の保存法:国内希少野生動植物種、環境省レッドリスト2020:絶滅危惧ⅠB類種、宮崎県レッドリスト2022:絶滅危惧Ⅰ類など)が存在していることや、シカ等による食害についても確認されました。獣害に関して、植林地においては既にシカ柵を設置するなど対策を行ってきましたが、森全体の調査を実施したのは初めてのことです。
今後は、モニタリング調査を継続するとともに、獣害からの回復や、地域と連携した新たな活動を検討しています。
宮崎県綾町に所在する東洋紡「綾の森」
生物多様性に関する認証制度への参加
環境省では、民間の取り組み等により生物多様性保全が図られている区域(OECM※)を「自然共生サイト」として認定を始めました。
当社グループでは、「綾の森」の生物多様性保全の取り組みが評価され、2023年度上期「自然共生サイト」へ認定されました。また、2024年8月には、国連環境計画世界自然保護モニタリングセンター(UNEP-WCMC)などが運営する国際データベース(WD-OECM)に登録されました。これにより、2030年までに地球の陸と海の各30%以上を保全しようとする国際目標「30by30目標」の達成に寄与します。
- OECM:Other Effective area-based Conservation Measures
CO2吸収量の算定
東洋紡グループが現在所有する社有林におけるCO2吸収量を算定したところ、約1,500haの森林面積において、1年間に吸収したCO2量は約6千トン/年と見込まれています。
事業による貢献
環境・ファイバー事業
当社グループは、廃液・排水・排ガス処理装置とその材料や、水処理膜の販売を通じ、お客さまの環境負荷低減にも貢献しています。
政府・NPO組織・地域社会との対話と協力
環境教育活動
当社グループの環境教育として毎年実施している環境セミナーにおいて、2023年6月には、総合研究所の生物多様性保全活動の一環として、同大津市にある龍谷大学 生物多様性科学研究センターから先生をお招きし、「生物多様性の保全とその意義~観測技術としての環境DNA分析~」を演題に講演いただきました。オンライン参加を含めのべ約200人の参加者が、生物多様性保全に関する最先端科学を学びました。
2023年度環境セミナーの様子
地下水の協同管理(敦賀事業所)
敦賀事業所は、地下水管理を目的に集まった、地域の行政、学識経験者、住民、企業、NGOで構成される「敦賀市水環境整備懇談会」に参加しています。行政や市民と約束した削減目標を達成するための方策、活動結果や今後の予定等を報告しています。
当社グループでは、生物多様性保全のため、今後も地域社会とともに地下水利用の適切な管理を実施していきます。
びわ湖100地点環境DNA調査(総合研究所)
当社グループは龍谷大学と滋賀県が共催する「びわ湖の日滋賀県提携 龍谷講座」の関連事業として龍谷大学生物多様性科学研究センターが実施する、「100地点環境DNA調査『びわ湖の日チャレンジ!みんなで水を汲んでどんな魚がいるか調べよう!』」(通称「びわ湖100地点調査」※)に協賛しています。
総合研究所では、琵琶湖の生物多様性の保全に向け、これまでも地域の環境活動への参加や独自のクリーン運動の実施といった取り組みを行ってきました。さらに「びわ湖100地点調査」には2022年度から参加しています。将来のためにも定期的な採水を継続し、びわ湖の調査に貢献します。
- 琵琶湖における生物の生息状況を調査する市民参加型の取り組み。年に1度、有志の団体や地元企業などが琵琶湖全域の湖岸100カ所で湖水のサンプリングを行い、環境DNA(生物が放出する体液やふん便由来のDNA)分析を用いて生物の分布や移入種の拡散状況といった生物多様性の保全に欠かせないデータを入手・蓄積している。
和歌山県「東洋紡みらいの森」での森林保全活動
当社は、和歌山県中部の山林で「東洋紡みらいの森」森林保全活動に取り組んでいます。2006年の活動開始以来、地元の日高川町や紀中森林組合と協力して、植樹や下草刈りなどの活動を行ってきました。2021年11月にはより豊かな森を目指して、山桜、クヌギ、モミジなどの広葉樹を補植しました。
この森一帯には野生の鹿が生息しており、樹木の苗を食べることがあります。そこで鹿と樹木との共存のために、「みらいの森」周辺をネット(当社素材「イザナス®」使用)で囲い獣の侵入を防いでいます。さらに苗木に鹿の食害防止カバーを設置しました。
今後も和歌山県での森林保全活動を通じて、生物多様性や気候変動などの課題に貢献していきます。
苗木に鹿の食害防止カバーを付けている様子
30by30アライアンスへの参画
当社および東洋紡不動産株式会社は、生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向けた活動を推進する「生物多様性のための 30by30 アライアンス」に2022年11月より参画しました。
綾町との地域包括連携協定の締結(綾の森)
当社グループ社有林の一つが位置する宮崎県綾町と2023年6月に包括連携協定を締結しました。綾町は日本最大級の照葉樹林を有し、自然と共生する地域づくりが世界的に高い評価を受け、2012年ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)によりユネスコエコパークに登録されています。これから、社有林を活用した綾町の地域活性化と、当社の持続可能なものづくりと自然環境保全との共生を目的にともに活動に取り組みます。