体内循環性を有する高純度エクソソームの高効率な精製・回収に成功
新開発分離膜「CATAROSEV®」の研究成果を「第10回日本細胞外小胞学術集会」で発表
当社は、このほど、エクソソーム精製キットとして新たに開発した※1微小な孔とイオン交換機能を持つ精密ろ過膜「CATAROSEV®」(カタロセブ)を用いて、体内循環性を有する高純度なエクソソームを高効率に精製・回収することに成功しました。今回、精製されたエクソソームを解析して得られた物性データをはじめとする研究成果の詳細について、北海道大学で10月23日、24日に開催される「第10回日本細胞外小胞学術集会」において発表します。
エクソソーム精密ろ過膜「CATAROSEV®」
エクソソームは、細胞が分泌する50~150nmの細胞外小胞の一種で、生体内の血液や尿などさまざまな体液中に存在しています。核酸(マイクロRNAなど)やタンパク質を内包し、細胞間の情報伝達や細胞の修復などにおいて重要な役割を持つことなどが明らかになってきており※2、近年では、がんをはじめとするさまざまな疾病の診断や治療、再生医療など幅広い領域で応用可能な次世代モダリティ※3として注目され、世界中で活発な研究開発が行われています。
エクソソームの研究開発は、幹細胞等の培養上清を精製・回収したエクソソーム(以下、「精製エクソソーム」)を用いて行われます。現在、エクソソームの精製には、「超遠心法」を用いることが主流ですが、高額な装置を必要とする精製作業に数時間程度かかることや、精製エクソソームの純度が低いことなどの課題がありました。とりわけ、医薬品分野での研究開発においては、原料となる精製エクソソームの純度が低いと、残存する夾雑物(きょうざつぶつ)による副作用が懸念されることや、生体内において異物として検出され、肝臓などで分解・吸収されてしまうなど体内循環性を持たないことが課題となっていました。
当社が新開発した精密ろ過膜「CATAROSEV®」(以下「本製品」)は、微小な孔とイオン交換機能を持つ精製膜と、洗浄液や溶出液などで構成されるエクソソーム精製キットです。微小な孔を利用した分離機能により大きな夾雑物を除去し、さらに、表面に負電荷を有するエクソソームをイオン交換機能により精製膜に吸着させることで、タンパク質など他の小さな夾雑物を除去できるため、高純度のエクソソームの高効率かつ高収率な精製・回収を実現します。
このほど、本製品を用いて、培養上清を精製・回収したエクソソーム(以下、「精製物」)を、NTA法※4やWB法※5と呼ばれる手法で解析し、性能評価を行いました。その結果、本製品を用いた精製作業は、「超遠心法」と比較して、
(1) 作業時間※6は6分の1で同等レベルのタンパク質を除去できること、
(2) 精製物が回収するエクソソームの粒子数が3倍以上であること、
(3) さらに、精製物のマウスへの投与試験において、本製品による精製物は全身の臓器に広く分布しており、体内循環性を示していること(「超遠心法」で精製したエクソソームはマウスの肝臓に局在する傾向が強い)、
の3点で優れていることを確認しました。本製品の性能評価を通じて、体内循環性を持つエクソソームの精製・回収を実現できたことにより、今後、医薬品・化粧品・診断薬分野でのエクソソーム研究の発展に大きく寄与していくことが期待されます。今回の研究成果についての詳細については、「第10回日本細胞外小胞学術集会」で担当者がポスター発表などを行います。
今後、当社は、研究用精製キットを早期に市場投入するために、医薬品や化粧品などへのエクソソームの応用を目指す企業や研究機関向けに、年内を目標に本製品のサンプル提供を開始します。エクソソームを高効率・高純度・高収率に回収可能な本製品の提供を通じ、世界中のエクソソームに関連する研究開発の進展に貢献できるよう努めていきます。
◆「第10回日本細胞外小胞学会学術集会」での発表概要
・会場: | 北海道大学 学術交流会館 |
・日程: | 2023年10月23日(月)・10月24日(火) |
・ポスター番号: | P54 |
・ポスター掲示日: | 10月23日(月) |
・タイトル: | イオン交換基を持つ精密ろ過膜を用いたEVsの精製その物性および体内動態の評価 |
・URL: | https://ec-mice.com/the10th-jsev/ |
※1: | 2023年7月13日付ニュースリリース 「分離膜により高効率・高純度・高収率にエクソソームを回収可能な精製技術を新開発 早期実用化に向け医薬品・診断薬への応用を目指す共創パートナー企業を募集」 https://www.toyobo.co.jp/news/2023/release_1509.html なお、本精製技術・分離膜は、東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 瀬尾尚宏特任准教授との共同研究の成果として実現しました。 |
※2: | 近年の研究により、がん細胞はエクソソームを放出して転移を促進することや認知症や神経難病といった疾患にも関連があることが明らかになっています。 |
※3: | モダリティとは、低分子薬、抗体医薬、核酸医薬、細胞治療、遺伝子細胞治療、遺伝子治療などの治療手段のこと。 |
※4: | NTA法:Nano Tracking Analysis ナノ粒子トラッキング解析法のこと。対象物の粒子の大きさを測定可能。 |
※5: | WB法: Western Blot ウエスタンブロット法のこと。抗体を用いてたんぱく質の存在を検出する方法。 |
※6: | 5mlの培養上清(HEK293.2sus)の精製処理にかかる時間。本測定においては約30分。 |
以上
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